鳥取大学サイエンスアカデミー(公開講座)が2月22日、県立図書館で開かれ、共同獣医学科の岡本芳晴教授が「動物のがん治療はヒトを救う」と題して講演しました。
岡本教授は、がん細胞は1日に3000個ほどできているが、免疫などの生体機能によって処理されているとのべました。
がんの標準的治療法には外科手術、化学療法、放射線治療があるが、鳥取大学付属動物医療センターでは、犬や猫に対して先端的がん治療として免疫療法、光線力学療法、ラジオ波誘導温熱療法などをおこなっていると紹介しました。
補完療法として、ビタミンC大量療法もしているとのべました。(※1)
岡本教授は、ラジオ波は、比較的電気抵抗の小さいがん細胞によく通り、がん細胞の表面が熱を持つと、ナトリウムイオンなどの電解質や水分が多量に入り、がん細胞が死滅すると説明しました。(※2)
ラジオ波だけでは、腫瘍を小さくできなかったが、抗ガン剤を通常の3分の1の量で併用することで、小さくすることができたと報告しました。
さらに、光線力学療法により、リボソーム(微小カプセル)にICG(腫瘍に集積し一定の波長の光線を当てると発熱する色素剤)を修飾・結合して抗がん剤を入れ、静脈注射した後レーザーを充てて加温し、抗ガン剤を効かせる方式では、腫瘍を縮小、消滅することもできたと報告しました。
ICG修飾リボソームは、人では認可されておらず、動物の治験を通じて人に使える製薬の開発につなげたいと話しました。
【※1】がん細胞がブドウ糖の代わりに構造の似たビタミンCを取り込む。ビタミンCは過酸化水素を発生してがん細胞を破壊する。ブドウ糖が取り込めず栄養不足になったがん細胞が、ミトコンドリアにATP(エネルギー)の産生を頼り、その結果、活性酸素が発生、細胞死誘導因子が働き免疫システムを刺激して死滅する。がん細胞は活性酸素種を除去するカタラーゼなどの抗酸化酵素が少なく酸化ストレスに弱いとされるが、がん幹細胞などは強い抗酸化力を持つグルタチオンを合成しダメージを回避。抗がん剤や放射線もがん細胞の中に活性酸素を発生させる。加温することにより、ビタミンCや抗がん剤などが取り込みやすくなる。
【※2】生体は、細胞膜により細胞の内と外で浸透圧が同じになるように電解質の濃度を調整して、浸透圧差で生じる水分の移動を防いでいる。熱によって細胞膜のナトリウムイオン透過性が高まった場合、細胞外への排出処理が追い付かず、細胞内のナトリウムイオン濃度が高まると、浸透圧で多量の水分が入り、細胞が膨化し酵素によって自家融解する。
がん組織(腫瘍)は、血管を拡張して熱を逃がすなどのことができず、排熱する能力が弱い。
ナトリウムイオンを細胞外に排出するためには多量のATPを消費する。ミトコンドリアが活発に働かないと効率良くATPを産生できない。しかし、がん細胞は、少量のブドウ糖でATPを産生するミトコンドリア(呼吸鎖利用)に頼らずに、多量のブドウ糖を使ってすばやくATPを産生しているため、ブドウ糖の供給が追い付かなくなると、ナトリウムイオンを汲み出すことができなくなる。
がん細胞は低体温、低酸素状態を好む。ATPの産生を嫌気性解糖系=酸素を使わずにブドウ糖からピルビン酸→乳酸をつくる/短期間に激しく筋肉を動かす無酸素運動に利用=に頼り、酸素を嫌う。酸素を使ってATPを産生するミトコンドリアは、減少し働きが押さえられる。