「憲法を生かす会とっとり」は6月17日、鳥取市で「共謀罪」法を学ぶ講演会を開きました。谷口麻有子弁護士が講演し、通信の秘密やプライバシーに対する広範な捜査がなされ、社会が委縮すると警告しました。
谷口氏は、「共謀罪」法は①日本の刑法の基本原則との整合性②捜査機関(警察)が持つ大きな裁量権③立法事実―との関係について検証がいると指摘しました。
①の問題では、憲法は主権者たる国民が行政に枠をはめるために「法による行政」=行政は法律によって与えられた範囲内でしか行動できない=を位置づけ、行政が恣意的に権力を行使することを防いでいる▽特に刑法は、刑罰や捜査は生命、身体の自由を制約するため、行政の行為に厳しい縛りをかけている▽罪刑法定主義(憲法31条、39条)=ある行為を犯罪として処罰するためには、犯罪とされる行為の内容及び科される刑罰を予め、明確に定めておかなくてはならない=は、どのような行為が犯罪となるか法(刑罰法規)で定めることによって国民の自由を守っている―とのべました。
「共謀罪」法は、「法による行政」「罪刑法定主義」に反し、犯罪の構成要件が曖昧なため何が犯罪か不明確で恣意的運用が可能であり、「国民の自由を守る」という法律本来の役割から逸脱すると指摘しました。
同法の概要について、対象団体は、テロ集団その他の組織的犯罪集団▽対象者は、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を、2人以上で計画した者▽対象犯罪は277個▽処罰要件は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき▽ただし、実行に着手する前に自首した者は、刑の軽減又は免除―と説明。
例として、万引きの計画を2人以上でした場合、自転車などの逃走手段を1人が用意した時点で、全員に処罰を科すことができると紹介しました。
問題点について①刑法の基本原則からの著しい逸脱②市民活動への深刻な委縮効果(捜査機関による監視・捜査の範囲の不当な拡張)③立法事実の欠如―を指摘しました。
憲法は、行政府への不信を前提にしており、刑法には謙抑性=国が身体の自由を侵害することから、刑罰を科すのは他に方法がないような場合に限る=や、既遂犯処罰の原則=考えただけで処罰をしたり、実際に害悪が生じていないのに処罰するのは権力の乱用=があり、実行の着手前の段階での処罰は極めて例外的で、対象犯罪は厳選されているとのべました。
未遂罪(犯罪の着手)は、個別の処罰規定が必要で重大な犯罪(殺人、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、背任、強姦、傷害)にある▽予備罪(犯罪の着手前の準備行為)は、さらに重大な犯罪(建造物放火、通過偽造、殺人、身代金誘拐、強盗)にある▽予備及び陰謀罪は内乱、外患、私戦にある▽サリンやハイジャック、爆発物などは予備や陰謀の段階で処罰できる―と指摘しました。
その上で、共謀罪の対象犯罪が277にも及ぶが、277の犯罪に関する法律が厳格に適用されるならば、法に抵触せずに日常生活を送ることは難しいと指摘し、マイナスドライパーの所持(ピッキング防止法違反)、企業への抗議活動や不買運動(信用毀損=きそん=罪、威力業務妨害罪)などが抵触すると指摘しました。
さらに、法文上の言葉の定義の曖昧さについて「組織的犯罪者集団」の定義がなく、捜査機関・司法機関の解釈に委ねられる▽犯罪の「準備行為」か、どうかは客観的・外形的にはわからず、共謀罪の捜査が自白に大きく依存する▽「準備行為」がなくとも、「計画」の段階で共謀罪は成立し、捜査は可能になる―とのべました。
捜査機関・司法機関の解釈に委ねられる危険性について、捜査や解釈が適正になされる担保はなく、拡大解釈や不当な捜査が現に行われていると警告しました。
不当逮捕の例として、反原発活動をする市民がレンタカー代を割り勘にしたところ、道路運送法違反で逮捕されたことなどを上げ、捜査機関が権力を乱用するケースや自白の強要が増え、自由や人権が脅かされるとのべました。
森林法、著作権法、種苗法などテロと関係のない犯罪も対象となり、通信傍受を拡大するなど市民生活に広く捜査の網をかけ、社会を極度に委縮させると批判しました。
立法事実の欠如について、法文上では目的を「国際組織犯罪防止(TOC)条約」を実施するためとしている▽しかし、TOC条約は「条約の意味と精神」に主眼を置きながら「自国の国内法の基本原則」と合致する立法措置を講じることを求めている▽組織的犯罪集団による重大犯罪を計画段階で処罰するTOC条約の目的は、既存の法体系で可能であり、不足があるならば、個別の犯罪に計画段階での処罰規定を加えるだけでよく、共謀罪は不要▽日本の国内法は計画段階での処罰は極めて例外的であり、機械的に共謀罪を設けることは、国内法の基本原則と合致しない―と批判しました。
さらに、TOC条約の対象犯罪は、テロを目的としない経済的な組織的犯罪で、テロ対策にならない▽「共謀罪」法は、公選法違反、政治資金規正法違反、特別公務員職権乱用罪・同暴行凌辱罪(公安調査官や警察官)、会社法の特別背任罪、取締役の贈収賄など意図的に政治家や行政、大企業、暴力団との癒着に関わるものが抜かれている▽同法は条文上「テロ等準備罪」がなくテロは対象外―とのべました。
TOC条約の「組織的犯罪集団」の定義=①3人以上で組織された集団②一定の期間存在③金銭的、物質的利益を得るための重大な犯罪を行うことを目的として一体として行動するもの=に比べて「共謀罪」法の定義は、「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる犯罪を実行することにあるもの」と対象を限定せず、いかようにも解釈でき、定義はないに等しいとのべました。
「共謀罪」法の目的の一つに捜査権限の拡大をあげ、「治安維持が究極の目的だ」と指摘し、民主主義を守るために政権交代して廃止しようと呼びかけました。