【11月19日付】藤田安一・鳥取大学名誉教授インタビュー 総選挙結果を受けて

 総選挙結果を受けて、鳥取大学の藤田安一名誉教授に聞きました。


 問 今回の総選挙の結果をどう見ますか。


 藤田 一つめは、自民党の圧勝という結果になりましたが、安倍自民党を国民が積極的に支持したわけではないということです。希望の党ができて野党が分裂し、自民党が漁夫の利を得たに過ぎません。


 1人を争う小選挙区制ですから、野党が1本化しないと太刀打ちできません。自民党の得た議席は、3割の得票で6割の議席がとれる小選挙区制による虚構の多数です。国民の消極的支持で生まれた第4次安倍政権ですから、強権的なやり方をつづければ(野党の質問時間を削るようなやり方)、民意が離れることになります。二つめは、日本の政治史の中に明確な形でリベラル政党(護憲、立憲主義、平和主義、人権擁護)が登場しました。民進党が割れて立憲民主党ができて、安倍政権への批判票の受け皿となりました。安倍暴走政治と対決するリベラル政党が、一定の支持を得たことは、日本の政治の前進として積極的にとらえる必要があります。三つめは、日本はまだポピュリズム(現在の右翼排外主義)の台頭を許していないということです。もっとも、安倍自民党もポピュリズム的傾向は強いのですが、希望や維新などのポピュリズム政党が伸びずに、欧米のような社会を分断するような状況には至っていません。


 問い 希望の党の出現で野党共闘が壊されましたね。


 藤田 今回、希望の党は野党共闘を阻む役割を果たし、安倍自民党の一番の援軍となりました。安倍自民党は今後も、反共の希望の党を「野党共闘」から共産党を排除=野党共闘を破壊=するために利用してくると思うので警戒が必要です。無所属の会も希望と立憲民主党を取り持ちたいとしており、予断を持って語れません。


 問い 立憲民主党は野党共闘を大事にして選挙戦をたたかいましたね。


 藤田 共産党が市民と野党の共闘を優先させて、自前の候補者を降ろして立憲民主党に一本化したことが大きかったと思います。共産党の対応がカギでした。


 問い 立憲民主党をどうみますか。


 藤田 今後も共産党との共闘、市民と野党の共闘路線を続けていけるかどうかにかかっています。
 今回、民進党が分裂したことは、選挙戦自体は残念でしたが、立憲民主党というリベラル勢力の核ができた点でよかったと思います。安倍政権を倒すためにリベラル勢力が結集するという路線が明確になりました。
 一方で、安保法制容認、改憲を志向する勢力が、民進党から出て希望の党に移りました。もちろん、希望の党の「踏み絵」に批判的な議員も中にいますから、そういった議員が離党することはあり得ます。


 問い 希望の党をどう見ますか。


 藤田 小池百合子代表が都政に専念して、しばらく国政から離れるとしても、代表にとどまっています。小池代表の影響力が薄れても、民進党出身者で安保、憲法の問題で自民党と同じスタンスに立つメンバーが中心にいますから、本質は変わらないと思います。(※)
 とにかく政権交代を狙える、自民党に代わる政党をつくれたら、問題は解決できるという考えはまちがっています。それで失敗したのが民主党政権です。
 もし仮に、立憲民主党が希望の党に取り込まれて、2大政党になったとしても、同じ失敗を繰り返すだけです。安倍自民党に代わる、明確な対抗軸が必要です。その対抗軸が、リベラル勢力の結集であり、市民と野党の共闘路線です。


 問い 共産党は今回、大幅な後退となりました。今後の展開を含めてどう見ますか。


 藤田 共産党は、安保法制廃止、9条改憲反対など、立憲民主党と政策的にかぶることが多かったので、立憲民主党に途中下車しましたね。安倍政権に対抗して、リベラルな政策を実現する勢力として、立憲民主党の方が多数の議席をとりました。
 今後、共産党は安倍政権打倒のため、立憲民主党や社民党などとの共闘を前進させるとともに、共産党自身が立憲民主党にはない魅力を発信して広範な国民の支持を得る工夫と努力をする必要があります。
 安倍政権は今後の4年間で、確実に改憲に踏み出して来ます。ここで、リベラル勢力が憲法改悪反対の側に国民を結集できるのかが重要です。
 ※ このインタビューは総選挙直後の10月27日のものです。