県立岩美高校で昨年の12月16日、高校魅力化フォーラム「学校を核とした地域の魅力化を考える」(実行委員会主催)が開かれ、生徒、教員、住民、教育関係者ら120人が参加しました。
島根県立隠岐島前高校(海士町)を中心に人づくり、まちづくりを実践してきた島根県教育委員会の岩本悠氏が講演しました。
岩本氏が関わり始めた10年前、隠岐島前高校は生徒数が減ったため、教員数が19人から12人に減り、学習助手も図書館司書も消え、教員が専門外の科目を教えざるを得なくなり、進学率も落ちたと話しました。(以下講演要旨)
高校の生徒が減ると、学級数が減り、教職員数が減り、部活動が減り、進学者が減り、生徒が地元から流出するという悪循環に陥ります。
高校がなくなると、若い人が減り、人口の減少につながります。
岩美高もかつて105人あった入学者が59人に減って学級数が減っています。0~14歳人口も2010年の1400人超が2040年には700人程度になると推計されています。
隠岐島前高校では2003年に140人だった生徒数が08年には90人に減り、存続の危機に直面していました。
教職員には島出身者や高校出身者がおらず、当事者意識が低く、住民や行政も問題意識が低かったのが当時の現状でした。
高校の存続は教職員の仕事ではなく、町は教育委員会の問題だと言い、教育委員会は県立高校だから県の問題だと言いました。県は再編基準があり、後は高校が考える問題だと言いました。
誰も本気で考え、行動する主体がいませんでした。
中学生が「行きたい」、在校生や卒業生が「行ってよかった」、教員が「行きたい」、地域が「活かしたい」と思うような魅力ある学校づくりが必要でした。
教員は誰も行きたくないというのが本音でした。
危機は変える、躍進する、進化するチャンスでもあります。教育改革、地域創生の好機にもなります。
高校をまちづくりの拠点にするチャンスだと考えました。
そこで、高校、地域、行政の協働チーム(高校、中学、役場、教育委員会、議会、PTA、民間団体、卒業生会、NPO、住民有志)をつくり、ビジョンづくりに取り組みました。
この町がこの先「どうなって行きたいか」「どういう地域、産業にしたいか」を議論しました。
そして、そのために必要な若者、人材を育てることが、この高校のミッションとなりました。
今は役場や農協で雇用するという、公共の仕事が増える時代ではありません。一方で、漁業などの一次産業や観光業は後継ぎがいなくて人手不足でした。それらの課題を解決して、新たな産業をつくれる人材を育成することが目標となりました。
「仕事がないから帰らない」から、「仕事をつくりに帰りたい」に変える、自らの手で産業をつくる気概を持った若者を育てることが大事です。「志を果たしていつの日にか帰らん」から、「志を果たしにいつの日にか帰らん」に発想を転換することが大事です。
人材育成に必要なカリキュラムは何か、地域がどういう支援をしていけるか考え、高校生がまちづくり、仕事づくりに携わること=人づくりの学習(知識、技能習得)をして▽地域づくりに活用(課題解決、実践)することに取り組みました。
そうなると地域全体が学校で住民が先生です。ICTも活用してグローカルに学ぶことを重視しました。
海士町は、歴史、芸能、ものづくり、自然環境、教育・子育て、医療、行政・政治、観光、農業、漁業、林業、畜産、科学・研究、福祉、文化、暮らし、商業・経営など、日本の将来の課題が山積しています。
地域課題解決型の学習に取り組みました。机上の空論、頭でっかちをつくらない学習です。
高校生が地域に出て住民の声を聞いて、地域の魅力や課題を発見します。課題の解決策を立案し、実践するプロジェクトで、失敗を経験し成長します。
2年生になると海外に出てプロジェクトのプレゼンテーションをします(地域の魅力と課題、解決策を発表)。そしてフィールドワーク、自主研修、ホームステイをします。
海外でどんな魅力や課題があるか確かめることで、この町の本当の魅力や課題が見えてきます。
現在、世界へ魅力を発信するための動画の作成▽エネルギーの自給自足に向けた研究を外国の企業や東大と作成、提案▽地域の方々の協力を得て新しい観光プランを立てる、などに取り組んでいます。
空き家を活用して「寺子屋」学校地域協働型公立塾学習センターを開設し、子どもたちが放課後に集まって勉強します。学校と寺子屋のコラボです。
島の子どもたちには、関係性の固定化、価値観の同質化、刺激・競争の欠如などの傾向が見られます。裏返せば、多文化・協働の不足、創造性・チャレンジ精神の不足です。子どもたちは、それらを求めて外の世界に出ていました。
それを克服するために、「未来を創る島留学」を始めて、全国から意志のある多彩な「脱藩者」を募集しました。
その結果、高校生たちは、課題解決のためにもっと学べる環境に行きたいと大学を志し、それまで40人中2人しかいなかった早慶、国立大学の入学者が、39人中13人になりました。
学校魅力化に取り組むなかで高校の生徒数は、15年には160人にV字回復しました。
入試の倍率が2倍以上になったため、子どもが小・中学生のときに移住する家族も現れました。
ここ10年で、島前高校への地元の入学率が47%から89%に倍増▽若い家族のUIターンが増え、社会減から社会増に転じ▽出生数が年間8人から18人に倍増▽観光客が1・3倍化しました。
鳥取県に倣えと高校再編をすすめてきた島根県は今、中山間地域の学校を「小さくとも魅力ある高校にしよう」と全県展開しています。
連携のなかった県立高校と行政、地域、NPO、民間が連携し、生徒の資源活用能力を育成し、地域課題の解決に挑戦しています。
学校と地域がコアなチームになることが重要です。
イノベーション(新しい価値の創造)は、既存の要素の新しい組み合わせで起こります。学校と地域、行政をむすび、協働をつくり出せるコーディネーターの育成が大事です。
以上が講演要旨です。海士町では、住民参加で振興計画を策定▽移住者が研修生として商品化に従事する研修生制度▽細胞を破壊しない冷凍技術を導入し海産物を真空パックで販売▽サザエカレー、隠岐牛などのブランド化など、住民自治、移住者促進、地域活性化が一体となってすすめられています。