「新型コロナ危機」の中、政府・与党は、国民の怒りを買うばかりの後手後手の対応のみならず、この機に乗じてまたしても憲法改正を持ち出してきます。その内容の一つがコロナ危機で国政選挙が行えない場合を想定して国会議員の任期延長を憲法に書き込もうというもの。
現職時代に私は、衆議院憲法審査会においてこのテーマでの論戦に挑むため、過去の議論などを学ぶ機会がありました。そもそも国会議員の任期延長とは、国民主権の大原則を支え実現するための極めて重要な権利である国民の選挙権を停止することに他なりません。その国会議員の任期が法律ではなく憲法にはっきりと明記されているのは、実は戦前の反省をふまえたものでした。明治憲法下の1941年、衆議院議員の任期が次のような理由で法改正によって1年間延期されました。「今日のような緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民を選挙に没頭させることは、国政について不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦競争を生じせしめて、内治外交上甚だおもしろくない結果を招くおそれがあるのみならず、挙国一致、防衛国家体制の整備を邁進しようとする決意について疑いを起こさしめぬとも限らぬので、議会の議員の任期を延長して、今後ほぼ一年間は選挙を行わぬこととした」。
こうして、多くの犠牲を生み出した戦争へと突き進むための挙国一致体制がつくり出されました。この歴史の反省から戦後、憲法制定議会において金森徳次郎憲法担当大臣は「任期延長は甚だ不適当」と明確に述べ、国民主権を確立した戦後の日本においては、一時の権力者の思惑で簡単に任期を動かせぬよう、法律ではなく憲法に規定をしたのです。
「一つになろう」とのメッセージが権力の側から発せられた時ほど、私たちは心して一人ひとりの命と人権を守りぬかねばならない――歴史の教訓であり、またコロナ危機というかつてない事態の中で迎える今年の憲法記念日にあたっての私自身の改めての決意です。